「音楽の友」2008年5月号「東京の演奏会から」〜室内楽〜


 着実に回を重ねる藤井のリサイタルも第10回目を数える。

今回のテーマは、デュオ、トリオ、合奏協奏曲と様々な編成の作品を、時代を追いながら探るというもの。

前半は、クーラウ「グラン・ソロ」op57、ドゥメルスマン「演奏会用ソロ第6番」、ルーセル「トリオ」op40(fl、va、vc)、後半が、バッハ《ブランデンブルグ協奏曲第5番》。

 彼女の美点は演奏の立ち居振る舞いなど、音楽を超えての気品と優美さを併せ持つことであるが、演奏家は積極的に聴衆へと働きかける必要性が常になければならないとはいうものの、これ見よがしと思える演奏もあるなかで、藤井の控え目ながらも内面へと立ち向かう、音楽の息遣いを大切にした演奏が彼女の身上であろう。

 ルーセルでは合奏の纏まりがやや未消化であったものの、最後の《ブランデンブルグ協奏曲第5番》では、ヴァイオリンの桐山建志が加わり、全体を導きながらアンサンブルを引き締め、それに応えた藤井の演奏も気負いのない直向きな演奏であった。

<高山直也>